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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.98:子育て中の母猫が仔猫の父猫を攻撃する


★★相談内容★★

初めてご相談させて頂きます。ブリティッシュショートヘアの雄(1歳)と雌(10ヶ月)と暮らしています。最初に迎えた雄がとても良い子だったため多頭飼いに踏み切り、最初の3〜4日は雌への威嚇があったもののお互い良い遊び相手となり、仲睦まじくしている姿に猫と暮らす喜びを日々噛み締めていました。

当初交配は全く考えていませんでしたが、二人の関係が良好で「このふたりの子猫であれば是非欲しい」という友人や身内の声もあり、1度だけ自然の流れで交配させてみることになりました。若齢での妊娠となりとても心配しましたが、無事5匹の可愛い子猫を出産しました。「まだ子猫のようなこの子に子育てなど出来るのか?」という心配 をよそに、日々かいがいしく育児を行っています。

お陰様で子猫は順調ですが、妊娠中より父猫が母猫の上に乗る場面も度々見られたため出産の1週間後に日帰りの去勢手術を行いました。父猫の帰宅後、母猫はしばらくの間父猫の後ろをついて歩き、しきりにお尻の臭いを嗅いでいましたたが、20分ほど経つと突然見たこともないような剣幕で威嚇して父猫を激しく攻撃しました。すぐに父猫を抱き上げてケージに隔離しましたが、冷却期間をおくためにケージにはブランケットで目隠しをして不必要に父猫の姿が見えないようにしました。以降、2階のリビングには入替制の交代で過ごしています(ふたりの従来のケージはリビングに、母猫と子猫の産室&育児 部屋は1階の個室で完全に分けていました)。

しばらくは外へ出たがって悲しげに鳴く父猫の声を聞くだけで威嚇するような顔をしていましたが、数日経つと威嚇のそぶりもなくなりケージの目隠しも取れました。母猫は父猫の居るケージのそばで仰向けになって昼寝をしたりケージのワイヤー越しにチョイチョイと手を差し入れたりしていたので、「手術直後の病院の臭い」が薄まるにつれて夫であることを思い出したのかな?と考えていました。

手術から1週間経ち、術後の経過も良好だったため恐る恐るふたりをリビングで一緒にしてみました。父猫は今までと何ら変わらない様子で母猫を毛づくろいして一緒に窓の外を見たりしていましたが、何となく雰囲気が固かったので注意して見ていました。やはり15分ほど経つと母猫の態度が豹変して父猫を攻撃しました。父猫が逃げ回った後にはオシッコがこぼれており失禁してしまうほど怖い思いをさせてしまったのか、と焦って無理強いをしてしまった事に大変反省をしています。

色々調べてみると、「去勢や避妊後に同居猫から激しく拒絶されるのは良くある話」との事ですが、今までも病院には爪切りで定期的に通っており、父猫がIBDの組織検査のために日帰り入院をしたこともあったので、不勉強とは言え「病院や手術の臭いでまるで他人になってしまう」という事態に大変ショックを受けています。かかりつけの獣医さんからは「子離れするまでは刺激しない方が良い」と言われており、それは本当にその通りだと思っているのですが、出産後から手術を受ける1週間は特に問題なく過ごしていたのに・・・と思うと、何の落ち度もない父猫が不憫でなりません。

隔離して子離れを待つのは簡単ですが、一度「他人」になってしまった関係が果たして修復できるのか?と子猫が生まれた喜びも半減する思いです。5匹の子猫は1匹を手元に残して生後11週頃を目処に譲渡する予定なので、手元に残る子猫と父猫との関係も心配です。ずっと隔離しっぱしでいきなり顔を見せて驚かせるのも忍びないので1日に何度か顔を見る・・・というのを日々続けてお互いを受け入れられれば・・・と思っていましたが、それどころではなくなってしまいました(手術を行うまでは時折産箱に子猫を見に来ており、特に危害を加える様子も母猫が怒るそぶりもありませんでした)。

今思えば「出産後の母猫がナーバスになりやすい時期」に「時として他人になってしなう手術」を行ってタイミングが悪すぎたのか、と後悔もしていますが、これ以上の交配は考えておりませんし余計な刺激を与えて育児放棄に繋がったら困る、と判断しての結果でした。現在は家人と父猫・母猫それぞれとは上手くいっていると思っています。父猫は母猫を未だに慕ってケージ越しに鳴いていますが、子離れの始まるであろう年明けまでは完全隔離が無難でしょうか?いずれ時期を見て母猫と手元に残す子猫も避妊・去勢手術を行わなければならないのですが、「手術を行うと家人や同居猫との関係が悪化することがある」という相談事例が何件もある事を思うと、二の足を踏んでしまいます。 また、両親が我が家のように2匹で引き取っていずれ避妊・去勢手術を予定しているので、今回の件を大変心配しています。兄弟姉妹の子猫を多頭飼いで避妊・去勢手術を行う場合、適切な順序やタイミングはあるのでしょうか(何事にも絶対はありませんし、個別の生来の気質なども影響することは重々承知しています)?

長々ととりとめのない相談となりましたが、・父猫と母猫の関係を今後どのように改善したらよいのか?・母猫と子猫たちの避妊・去勢の望ましい時期やタイミングについて、是非ご教授いただければと存じます。ご多忙のところをお手数をお掛けしますが、どうぞ宜しくお願い致します。



★★助言内容★★

現在我々が一緒に暮らしている猫の祖先は、犬のように強固な社会的繋がりのある群れを作って生活することもなく、つがい関係にある雌雄が一緒に生活したり協同して子育てをするといったような習性も有していなかったことから、雌雄ともにほかの個体とは緊密な関わりを持つことのない、社会性とはおよそ無縁の単独生活をしていた動物であったと思われます。

そういう彼らが種を存続させるため人間と共生するという方向に大きく舵を切ったことにより、その後の家畜化の過程を経てイエネコという現在の猫が誕生したわけですが、それは彼らの身に自らの生活圏や縄張りを人間のみならずほかの個体とも共有するといった、急激な生活環境の変化をもたらしました。それに彼らがついて行けたのは、集団生活という新たな環境に適応するための社会性を身につけたからにほかなりません。

とは言えそれで従来の習性が失われたわけではなくつがい関係を作らない一夫多妻制の配偶システムなどは何ら変わってはいないため、雌猫が発情中に不特定の雄猫を交配相手として受け入れるところなどは現在の猫も同じです。更に発情が終わってしまえばそういった配偶行動の相手であっても、その後はお互い配偶者としては認識しなくなるところなども変わりありません。

したがって今回問題となっている雌猫さんの場合も、自分が威嚇や攻撃をしている雄猫さんが仔猫達の父親であるという認識は始めから持ってはいないはずです。ただし、同じ集団内にあって環境資源を共有する友好的で身近な存在であることに違いはなく、その勝手知ったるなじみのある匂いが病院から帰った相手から消えてしまっていてほかの知らない匂いを付けていた(去勢手術に際し術野となる肛門周囲は徹底消毒するため、各個体毎に異なる肛門周囲腺からの分泌物の匂いが消毒薬などによって修飾されてしまっていた)ため、それが雌猫さんの警戒心を刺激し威嚇行動が起きてしまったのでしょう。子育て中で子猫を守るためピリピリしている母猫とあれば尚更です。

なお多頭飼育などで猫が集団生活している場合、その集団が母親である同じ雌猫の血縁となる兄弟姉妹によって構成されているのであれば、集団内の友好的関係はこれと言った問題もなく概ね良好に保たれます。もっとも血縁関係のない場合でも、生活資源などが潤沢にあってそれを取り合う必要がないうえに、集団生活に適応するための社会性も身につけている現在の猫達は、集団内でその地位や優劣を決するために儀式的に争うことはあっても基本的には平和的共存の道を選択します。

とは言えそれは一般的に熾烈な争いは起きないという意味であって、そこまでは行かなくても猫同士の相手に対する好き嫌いだけはどうにもなりません。そのため集団内の猫同士が友好的関係を築けるかどうかは結局のところ相手との相性次第ということになりますが、お互い嫌いな猫同士でも双方にお気に入りの場所を用意して棲み分けできるようにするなど、環境を整えてやることでつかず離れずの微妙な距離を保って共存できるようにすることは十分可能です。

もっとも、今回の雌猫さんと雄猫さんについてはそのような心配は無用でしょう。少なくとも当初はお互い仲の良い関係だったようですので相性的には問題はなく、仔猫達が離乳して子育てが終わり雌猫さんの仔猫達への関心が弱まれば自然と元の友好的な関係に戻るはずです。それまでは雌猫さんの威嚇を誘発するような直接的な接触は極力避け、お互いの匂いのついたもので体をブラッシングし合う(特に顔まわりや尻尾の付け根付近を集中的に)匂いの共有程度に留めておくのが無難です。この方法は、手術などして家に帰った猫と同居猫との間でトラブルが起きないようにする場合に有効ですので、両者をすぐには引き合わせたりせずしばらく隔離しておく間にこのような間接的な匂いの交換を行うことをお薦めします。

雌猫さんの避妊手術については、当然のことですが仔猫への授乳期間中は手術後泌乳が止まってしまうため施術できません。仔猫が離乳すればいつでも施術は可能ですが、その離乳の時期が発情期に重なるとすぐに発情が回帰します。その場合発情中は出血量が多くなりますので手術は避けた方が良いと思います。仔猫達の避妊去勢手術については、雌猫は性成熟するのが生後10ヶ月平均、雄猫は生後12ヶ月平均であるため、いずれもそれよりも早い雌猫では最初の発情が来る前、雄猫では尿マーキングが始まる前の施術が一般的です。ただし、施術の適期に関する考え方は獣医師によって様々ですので手術にあたってはかかりつけの動物病院にご相談ください。



★★相談内容★★

お忙しいところを、ご丁寧にありがとうございました。既存の相談事例と重複する内容が含まれているにも関わらず親身なお返事をいただき、感激しています。

「犬と違って父・母・子供たちでファミリーを運営する、という発想がない」ということですね。目からウロコ、納得です。つい人間目線で考えると「夫なのに」「父親なのに」と心を痛めてしまうですが、猫にしてみれば見当違いな心配なのですね・・・そう考えると気持ちも楽になりました。

また、手術後の具体的な引き合わせ方なども大変参考になりました。すぐに直接対面させず、交互にブラッシングして匂いを交換させる方法などは、両親にも伝えておこうかと思います。

相変わらず、父猫・母猫はケージの網目越しに戯れ合っており、今朝は母猫が1階の育児部屋から子猫を1匹リビングに連れて上がり、驚く家人とケージ内の父猫を尻目に延々遊んでいました。こちらの心配を理解しているのか・・・?とその奔放さに振り回されていますが、「早く仲直りさせたい」という人間の都合は一旦脇に置いて年内は気長に待とうかと思います(わざわざ2階に連れてくる位なので信頼されてはいるのだろう、と解釈しておきます)。

また何か問題が起こったら(ないに越したことはありませんが・・・)、相談させて頂ければと思います。本当にありがとうございました。