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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.76:保護した猫がずっと大声で鳴き続けている


★★相談内容★★

外でさまよっていた子猫1匹を6月から当家で保護しております。当家では数年前までは猫をかっておりましたが今は一頭もおりません。また、居住者は夫婦のみです。保護した当初の子猫の特徴は以下です。・今年の1月ごろ生まれたと推定。・体重は2キロ未満と小さめ。・慢性のヘルペスと病院で診断。・下痢/軟便が続く。 ・性格はとても人懐っこく大人しい。・未去勢。また以前の飼い主からの話ではそれまで、・多数の犬猫と一緒に生活。・外を出入り自由にしていた。とのことです。

そして、現在の子猫の状態は以下のような状況です。・体重は3.4キロで、毛並みも良くなり、筋肉もついてきた。・下痢はほぼ完治。・ヘルペスは、病院で処方された薬を一定期間投薬すると改善されたので、今は休止中。・頻尿(何度もトイレに行く)だったので、病院で調べたら少しストルバイトがみつかった。現在、餌を指定されたものに変更中。・ダイニングリビングのみ(20畳ぐらい)を猫の空間(人の生活の場でもあります)として開放し、屋外も含めそれ以外の部屋には行かさない。

体調は改善してきたようなのですが、問題は異常行動が顕著になったことです。寝ている時と遊んでいる時以外は、ほぼずっと落ち着きなくウロウロと同じコースを巡回しながら何時間も大声で鳴き続けてており大変困っています。特に大きな声になる場所は、窓や扉の前です。

理由はいくつか考えてみました。1)スプレー行為はまだないのですが、発情に伴うもの。2)何らかの疾患。3)外にいきたい。4)餌やトイレが汚い。5)エネルギーが発散されない。6)よその猫とのなわばり争い。7)一匹だけで寂しい。

1)でしたら去勢すれば良いのでしょうが、諸々の事情で、直ちには去勢することができません。2)については、精密検査も考えています(詳しい知識がありませんが)。3)は、完全室内飼いの方針なので対応難しいです。4)は、何度も対処していますが変わりません。5)は、おもちゃで毎日2時間は運動させ疲れさせるようにしていますが変わりません。6)は、何度か窓越しにケンカしていましたので、先日猫除けの機器を設置し視界に入る庭によその猫が侵入しないように措置しました(効果はまだ不明です)。7)は、将来はもう1匹猫を増やそうと思いますが今すぐには難しいです。

ただ仮に上記のような理由であったとしても、これほどしつこく長く鳴き続けるものなのかなと疑問です。よろしければご意見と対処法をご教示頂けましたら幸いです。



★★助言内容★★

今回の猫さんのケースは、不必要に繰り返される鳴き声のような過剰発声が特徴の、過活動と呼ばれる飼い主にとってはとかく厄介な問題行動のひとつですね。猫さんは雄猫なので該当しませんが、これが仮に発情中の雌猫であったならば猫としてはごく正常な性行動と言えます。

なお、年齢的にみて可能性は低いものの、甲状腺機能亢進症、心臓血管系の疾患、認知機能不全などの身体的疾患でこのような行動が見られることがあります。ほかにも慢性的な痛みを伴う疾患がその原因となることもあり、猫さんのストルバイト尿石症の既往歴なども考慮すると、まずはかかりつけの動物病院などでそれらの疾患の有無をチェックすることをお勧めします。

その結果それらの疑わしい病気がいずれも否定されたならば、改めて心理的な問題に的を絞って原因を探ることになりますが、猫さんのこれまでの経緯を見る限りそこから考えられる要因としては、飼い主さんの意に反して今の生活環境が猫さんに与えた負のインパクトと、それによって生じた不安、葛藤、欲求不満、ストレスなどの関与が真っ先に挙げられます。

というのも、保護されるまで猫さんは屋内外を自由に行き来できる環境で生活しており、その行動は屋外のかなり広い範囲にまで及んでいたはずです。一般に、野良猫など人に飼われていない雄猫の生活圏の広さは雌猫の3倍以上と言われているので、性成熟前とはいえすでに半年ほどは同じような自由生活をしていた猫さんであるなら推して知るべしです。

それに比べて現在の状況は、猫さんにしてみればいきなり囲いの中に閉じ込められ行動を制限されてしまったようなもので、その生理的要求や環境要求が十分に満たされているとは言えません。外に接している窓や扉の前で発声が強まるのも屋外に出たいという渇望の表れでしょう。したがって、その欲求不満が背景となって生じた強いストレスが中枢神経系の緊張をもたらし、その結果過剰発声といった情動反応が引き起こされた可能性は十分考えられます。

寝ている時と遊んでいる時以外はずっと落ち着きなくウロウロと同じコースを巡回しているという、状況とは関連なく反復的かつ儀式的、持続的に行われる猫さんの一連の動作も、環境的問題で欲求不満やストレスを抱える動物に見られる、一種の行動反応である常同行動の特徴を示していると言えます。動物園などでしばしば目にする、檻に閉じ込められた野生動物などが同じ場所を意味もなく行ったり来たりしている行動などがそれですが、その出現も今回のケースが環境要因に基づく問題行動である可能性を示唆しています。

最終的に今回のケースがそのようなことに起因する問題行動であると診断できた場合は、行動学的なプログラムに基づいて行動修正を行うとともに必要に応じて薬物治療も行います。そのほかの原因による場合も基本的な手順は同じですが、いずれにせよ正式な診断や治療を希望されるのであれば、診療をお申し込みいただきまずはカウンセリングを受けていただく必要があります。