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猫アニメ

猫の問題行動に関する相談事例


No.15:突然何かに怯えるようになった。


★★相談内容★★

はじめまして。猫の様子が急におかしくなったので、何か手立てはないかとサイトを探していて、ホームページを拝見しましたが、これまでの接した獣医さんとは違う見地からの見解が興味深く、なんとか猫の心をほぐしたいと思っている現状に少し道が見えかけたかなという気がします。そこで、勝手ではございますが、飼い猫の現状をお話しますのでお忙しいところ恐縮ですが、どういうこと(原因)が考えられるか、また、これから具体的にどのようにしたらいいかアドバイスをいただければたいへんありがたく、よろしくお願いします。

【猫のプロフィールと生活環境】

生後2ヶ月のときペットショップで購入したスコテッィシュフォールド。生後6ヶ月で去勢手術。現在1歳5ヶ月。ワクチン接種済み。2階建ての戸建て住宅で完全室内飼い。家人は夫婦2人。留守がちの家なので日中はひとりでいることが多い。寝るときを除き全室出入り自在、寝るときのみリビングに入れて閉める。食餌は缶詰とドライの混合を朝夕の2回。一度だけ食べすぎ(と獣医さんに言われた)で下痢をしたことがあるが、それ以外はいたって健康・元気(だった)。

【現在の状況・症状】

7月22日朝から、何かにひどくおびえている様子で、いったん治りかけたようにもみえたが昨日今日とまたひどくなった。特に物音に対してひどく敏感に反応し、ちょっとした生活音にも50センチも飛び上がったり、脱兎のごとく走り回って逃げようとする。以前は2階に上がって遊んだりしていたのが、今はリビングから一切出ようとしないし、リビング内でもピアノやソファの下などを恐る恐るのぞきこんでは、なにもないことを確認するようなしぐさをする。食餌は台所に来て食べていたが、いまは出てこないのでリビングに運んでいる。食欲はふつう。ただ、25日夜、何かの恐怖が昂じたらしく、夕食を嘔吐してしまった。トイレは異常なし。人に危害を加えるようなこともない。実は、症状が出た前日21日(土)に近所で爆竹を鳴らす音がしてかなりうるさかったとのこと。しかし、そのときは家には誰もいなかったので、猫がそれでパニック状態になっていたかどうかはわからない。その夜は特に変わった様子はなかったし、22日朝もリビングの室内は、夜中に猫が暴れた様子もなかった。ひょうきんで明るい猫だったのに、いまは性格が暗く、こわがりでおびえているのがかわいそう。「猫3日」ということわざがあるが、よほど恐い思いをしたのか、ちっとも忘れないのがあわれ。

【質 問】

内臓疾患などが原因でこのような症状がでることはないとかかりつけの先生に言われたので、もし肉体的に悪いところがないのなら、心のケアはとしてはどうしたらいいでしょうか。猫のストレス対処法などには『安心できる場所を作ってやる』と書いてありますが、具体的にはどのようなことをすれば、少しでも猫の心が癒されるでしょうか。まだ1歳なのでこれからの長い“猫生”を、恐れおののきながら暮らさせるのはしのびないのです。このような行動をとる原因はどんなことが考えられるか、これからどのように接したら少しづつでも安らげるようになるか、もし治療ができることならどういうふうにすればいいか、など、お教えください。長々と申し訳ありません。よろしくお願いいたします。



★★助言内容★★

お尋ねの件についてですが、このような場合、まずは猫ちゃんの身に何か肉体的な異変(例えば何らかの病気による特定部位の痛みなど)が生じている可能性を除外する必要があります。一般に、犬に比べると猫の場合はそのようなことがあるとナーバスになり易く、行動上過敏な反応を示すことの多い動物だからです。

また、中には甲状腺機能低下症のように、その発症により神経質になったり怒りっぽくなるなど性格上の変化をきたす病気もありますので、今回のケースに関してはそれらの可能性は低いとはいえ、念のため一応身体的な異常の有無はチェックされたほうがいいでしょう。

そこで身体的な問題がないとされた場合、それでは一体何が原因なのか?それについては、状況的には家人の留守中に、かって体験したことのないような恐怖を味わったために生じた精神的外傷(いわゆるトラウマ)により、ノイローゼの一種である恐怖症に陥ったという可能性が考えられます。ただし、一般的には人間や犬と違い猫ではトラウマから恐怖症になるケースは極めてまれです。

しかしながら、幼若期に様々な刺激に曝されそれに順応しながら成長してきた経験のない個体では、いつまでも刺激になれず臆病でいわゆる「神経質」な性格になりやすいため、たった一度の恐怖体験により本物の恐怖症にはならないまでも、その怯えをいつまでもひきずることはあります。

とりわけ、お宅の猫ちゃんのようにペットショップで売られていた猫の場合、生後間もない時期に母親や兄弟と引き離され、それらから充分な接触刺激を受ける機会がほとんどないばかりか、母親の行動を見ながら、どんな刺激が脅威であり、安全であるかといったことを学習することもないため刺激への適応力が弱く、脅威への対処能力に乏しいこともあって、当然そのようなケースは多くなります。

恐怖体験の実体としては、風、雨、雷、花火などの音や光がごく一般的ですが、今回はご指摘のあった爆竹の音であったかもしれません。なお、臆病な個体が強い脅威刺激に曝され、そこで一旦激しい恐怖反応が生じてしまうと、放っておけば状況は大抵は悪化する傾向にあります。その場合、恐怖反応を引き起こす刺激の限界値が徐々に低くなり、ちょっとした物音にも怯えるようになったり、「刺激般化」といって最初に恐怖をおぼえた刺激とは別の刺激でも恐怖反応を示すようになる、といった現象が起きることもあります。

これを防ぐためには、場合よっては補助的に薬物も併用しながら行動療法という治療を施す必要がありますが、その具体的な内容をということになりますと、より詳細な情報に基づく問題行動の分析、評価、診断を含め専門診療の範疇になりますので、別途正式なカウンセリングをうけていただかなければなりません。悪しからずご了承下さい。



★★相談内容★★

早々とお返事ありがとうございました。お話の中にあった「刺激般化」という現象は正直言ってちょっとショックでした。でもそうおっしゃられれば、確かに当っているところはあります。今後どのようにするかは、猫の様子を見ながら手遅れにならないように対処したいと思います。送信時刻から見て、ご自身の睡眠時間を削ってお返事くださったこと、大変ありがたく、心から御礼申し上げます。